2017年8月25日金曜日

三惑星の探求 (ハヤカワ文庫)

コードウェイナー・スミス著 伊藤典夫・酒井昭伸訳
(カバー裏より抜粋) 〈人間の再発見〉の第二世紀。美しい砂の惑星ミッザー生まれの放浪者キャッシャー・オニールの驚異の冒険を描く〈三惑星の探求〉全4篇。

 待ちに待った「人類補完機構」完結編。主人公は母星を取り戻す為に星を放浪している。母星は独裁者の手に落ちている。「宝石の惑星」は今ひとつなのだけど「嵐の惑星」が面白い。亀少女「ト・ルース」が完璧過ぎ。そして私の好み過ぎ!!ご主人様のために長い時を生きる少女。主人公が霞んでる。そしてチート過ぎ。何と亀少女の力を主人公にトレースする、みたいな。
 簡単に母星に送り返されて、独裁者を超能力で改心させハッピーエンド。そして主人公は次の旅へ。ちょっと簡単過ぎでは…と思う部分も。そして旅の途中では、みなが主人公にひれ伏すみたいな。面白いのですが、後半ちょっとな部分もあります。

 あと、短篇が8編。短篇は中々面白かったです。個人的には「達磨大師の横笛」が良かった。救済も破滅も自由に選べる横笛がたどる運命。穴を閉じるか開くか。最後のオチが…。「親友達」…つらいなー。許されるべき妄想…。彼は彼らを待ち続けるのか。

 著者は早世されていて、作品が少ないのが本当に残念です。作品集はこれが最後かな…。

人形 (創元推理文庫)

ダフネ・デュ・モーリア著 務台夏子訳
(カバー裏より抜粋) 平凡な人々の心に潜む恐怖を白日の下にさらし、秘めた暗部を情け容赦なく目の前に突きつける。『レベッカ』『鳥』で知られる、名手デュ・モーリアの幻の初期短篇傑作集。

 うーん、後味の悪さ、サイコー!!精神スプラッタサイコー!!他の短篇集にも掲載されていた作品もあります。その中の幾つかを紹介。

 「人形」著者は「レベッカ」の名にこだわりがあったのかな。主人公が夢中になったレベッカ。振り回される主人公と異常性愛者…人形を愛しているレベッカ。主人公に関してはウンザリされても仕方ないような気がする。人形に負けた男。
  「性格の不一致」一般的な男女の違いなのだけれど、それが常軌を逸したら?男性はある程度の自由を求める。女性は二人で一人、二人で過ごしたい、何もかも分かち合いたいタイプ。女性のほうがオカシイように読めるのだけれど、男のほうもちょっと変…。
 「満たされぬ欲求」おいおい、二人とも無職なのに結婚ですか…。お父さんが意地悪に書かれているけど、お父さんは正しい。ロマンチックだけでは生きていけない。
 「ピカデリー」スタートが悪かったとはいえ、ひたすら落ちていく女性の話。立て直すチャンスはあったのに。でも迷信というかジンクスのようなものに迷う気持ちは分かる。
  「飼い猫」ひもに振り回される女達。母親・娘の女の部分は気持ち悪いがあることだから…。
 「ウィークエンド」デートの話だけど、あるあるすぎて…ww 後味悪い話なのだけど笑えます。

 どれも現実にありそうな事が誇張して描かれているから、余計に後味が悪い。この後味の悪さが著者の良さ。精神スプラッタを楽しんで下さい。

2017年8月14日月曜日

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫)

グレッグ・イーガン著 山岸真編訳
(カバー裏より抜粋) 「この子がわたしの娘なの。生まれてくのがほんの何年か遅くなっけれど」ー待望の第一子となるはずだった女の子を失った科学者夫婦が選択した行動とは!?

 7篇収録の短篇集です。実はちょーとハードSFすぎて、私の頭では無理な作品もありました。これは私の頭が悪いのが悪いのです。「ルミナス」は全くダメでした。難しすぎる←あくまで私の頭では、です。「決断者」もいまひとつよくわかりませんでした。

 「行動原理」脳に作用するインプラントを使用して自由を手に入れる。その自由の意味とは?妻を殺した犯人を殺す。その理由は理解できる。妻の死から自由になること。目的を果たした後主人公はインプラントの作用…その自由に嵌っていく。私もインプラントが欲しい。
 「真心」まとめサイトなら「旦那さん、逃げてー」とレスが埋め尽くされそうな奥さんを持った旦那さん。奥さんは「永遠の愛」を求める。旦那さんは奥さんを愛しているし、答えようと努力している。でも奥さんは納得しない。インプラントを使用して永遠に愛しあう事を望む。愛情を現在の状態にロックするのだ。正直奥さん怖い…。サラの存在は一種の「隠喩」なのかな。
 「ふたりの距離」…正直主人公二人とも頭おかしいと思った。かなり気持ち悪い。依存が強すぎるのは私は受け付けない。
 「オラクル」何というか、宗教に対する嫌悪感を植え付けたいのかな?と思える内容。宗教家が物語に大きく関わっているのは理解できるのだけれど、いかにもな宗教家臭がダメだ…。物語自体は面白い。多次元ものです。
 「ひとりっ子」AIのもっと進んだ状況で生まれた子供を作った夫婦の物語。内容は難しくてよく分からない部分が多いのですが、ストーリー自体は分かります。著者の描く夫婦は難解すぎる。女性の個性が強すぎるなーという印象です。

2017年8月9日水曜日

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫)

グレッグ・イーガン著 山岸真訳 
(カバー裏より抜粋) 12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作…。

 表題作「しあわせの理由」。これは怖い。化学物質云々の難しい話はともかく、実際脳の腫瘍で性格が変わるのは聞いた事のある話です。この話の主人公は、腫瘍の影響で幸せな前向きな気分になっていました。で、腫瘍をやっつけたら…その薬の影響で…。脳をテーマにした作品で、人のしあわせなどの感情、その人生観、テーマはかなり重い。私は多分、いや絶対理解できていないと思いますが、それでも面白い作品です。
 「適切な愛」愛はどこまでできるか?愛する人を生かす為に、お腹(子宮)に脳をかかえられますか?女性が読むと気分が悪くなるかもしれません。
  「血を分けた姉妹」むー、現実的なテーマです。ありそうで怖い。簡単なあらすじは双子の姉妹が同じ病気に掛かったのだけど、一人は完治、一人は亡くなった。実は薬は…偽薬…。現実的なテーマと言ってもSFですから、その面白さはあります。でも、何というか重いな…と。

 他7編。どれも面白い作品です。お勧めの作品集です。

2017年8月4日金曜日

ゴッド・ガン (ハヤカワ文庫)

バリントン・J・ベイリー著 中村融訳
(カバー裏より抜粋) 設計技師にして発明家のわが友人ロドリックはある夜、自分は神を殺すことができると語った…。

 表題作を含めて10篇の短篇集です。どの作品も読み易くて面白いです。好みのタイプ。ただ一部の作品で主人公が…主軸となるのが誰なのか分からない作品があります。ちょっと引っかかる部分でした。

 「ゴッド・ガン」主人公の友人の不安定さ。無神論者でありながら神の存在を肯定し、神の否定する。ちなみに主人公はただの傍観者です。
「空間の海に帆をかける船」宇宙は海だった…ある次元の生物にとっては。エイリアンとの遭遇ものですが、アイデアが面白い。
「死の船」タイムトラベルものです。難しい理論は分かりません、ごめんなさい。永遠のループに巻き込まれた?と思わせてのオチが秀逸。最後のほうで急に「彼」が何度も使われだしているのですが、原文もそうなのかな。それまで主人公には「ティーシュン」(主人公の名)が使われていたのに、ちょっと戸惑いました。
「ブレイン・レース」脳のレース。まんまですww この作品、主人公がコロコロ変わります。ちょっと気持ち悪い。
「蟹は試してみなきゃいけない」別に蟹を食べる話ではありません。異世界に生きる蟹種族のお話。青春しています!!全然SFっぽくないけど、この話、好きだー!!
「邪悪の種子」主人公は二人。不死の「不死身」とサイコパス気味のジュリアン。とにかく執拗に「不死身」から不死の秘密を得ようとするジュリアン。スルーしようとする「不死身」の戦い。ジュリアンへの不快感が凄いけど、結局とんでもない結果になって、でも「ザマー」という感じでもない。

 気に入った話の感想でした。この著者は日本で現在手に入るのは長編ばかりで、短篇好きには残念な状況です。長編試してみるかな…。

2017年8月2日水曜日

万華鏡 (創元SF文庫)

レイ・ブラッドベリ著 仲村融訳
(カバー裏より抜粋) "SFの叙情詩人"ブラッドベリがみずから選んだ傑作26編を収録。

 他の短篇集と被っている作品が多いかな。
 「草原」子供の残酷さ、後味の悪さは「小さな暗殺者」に並びます。子供のほうが上手で大人は翻弄されて…。コワイコワイ。
 「鉢の底の果物」殺人を犯した主人公が指紋を拭き取る…拭き取る…拭き取る…強迫観念。狂気。最後のオチがよかった。
 「ちいさなねずみの夫婦」主人公夫婦が怖い!!実際存在しそうなタイプで怖い。おせっかいから一種の監視。余計なお世話。自分が正義が一番怖い。
 「骨」骨と肉の戦い!!神経症の夫と天然な奥さんの組み合わせ。神経症の夫は自分の骨に異物感を感じて…。気持ち悪い。
 「日と影」も同じような強迫観念と粘着質が何とも気持ち悪いです。 こちらはまたまた実際に存在しそうなタイプなのがヤバ過ぎです。
 表題作「万華鏡」うーん、切ないというかやるせない…。でもこの先こういう事故が起こらないとは限らない…。
 「すばらしい白服」貧乏な男達がお金を出し合って購入した白服。それを順番に着てそれぞれの思いを果たす。作品集の締めに相応しい作品。

 SFというよりホラーでは?と思う作品が多いです。私はホラーも好きだからOKですが、SFを読みたい人にはどうでしょう??あと、私は政治色とかが濃い作品は好まないのでパスです。