2010年4月30日金曜日

医学の歴史 (講談社学術文庫)

梶田昭著
太古から20世紀に至る医学の歴史を綴る。

 現在の医学がどのような歴史の積み重ねを経てきたか、この歴史があるからこそ昔は死病といわれた病気も治癒するようになった。読んでいると、何でこんな判断するんだとか、腹の立つところもあるけど。例えばゼンメルワイスを追放したこと、消毒だけでどれだけの女性が助かったのだろう…。あと脚気や壊血病…アシモフの本では、食料の供給の問題も述べられていたか。 p325に「摂取した食餌を消化・代謝するために必要な労働を計算する時代になった」なんという皮肉…。これは私は笑えないわ。
 一番印象にに残ったのは本文ではなくて解説だった。著者は胸部大動脈瘤を発症していたが、特に対処しなかったとか。76歳か…。あとp352の「臨死体験のある僕には死後の世界というものはなく、それはしょせん、生きている者の想像の世界である」臨死体験者は神秘主義に走るのかと思っていたので意外だった。私は臨死体験とかないけど、解説の人と同じ意見。
 素人でも何とか理解できるので、興味のある人は読んでみるのもいいと思う。

2010年4月29日木曜日

西太平洋の遠洋航海者 (講談社学術文庫)

B・マリノフスキ著 増田義郎訳
ニュー・ギニアで行われる「クラ」と呼ばれる贈与体系についての探求。

 ちゃんと理解できなかった。「クラ」という交易の形、やり方、呪術との関係の文面上のことは分かるのだが、その意味というか住民の意識がうまく呑み込めないままだった。これは、そこで長年暮らした人、住民でないと分からないことなのかもしれない。でもロマンは感じる。その首飾りや腕輪が通り過ぎてきた歴史、「クラ」という冒険で何を見てきたのだろう。なんて感傷的すぎるし、西欧文明の教育に影響されている人間の見方そのものだ。あと、呪術の影響力に驚いた。日本の上棟式は呪術に近いかな。住人は死霊を怖がらなくて、生きている人の呪術を怖がる。人間が一番恐ろしいというのは納得。
 著者のB・マリノフスキ、20世紀初頭にこの考え方をもって調査をしたというのはすごいなと。観察者として第三者の目を持ってニュー・ギニアの住人を調査するには、西欧に対しても第三者の目をもって見つめなければできないと思う。そうでないと西欧の偏見に歪められてしまうだろうから。こういう冷静な見方をする能力は羨ましいのだ。
 今でも「クラ」は行われているのだろうか。

2010年4月28日水曜日

メアリーブレア展 オリジナルカタログ

昨年東京現代美術館で開催されたメアリー・ブレア展のカタログ。7&Y( 現セブンネットショッピング )にて購入。

 まず言いたいことは、なぜ「ファンタジア2000」に「ベイビー・バレエ」を入れなかった?! ということ。このカタログで一番のお気に入り&お薦め。頭の中でおちびちゃんたちが踊りだす。このイラストのままのアニメーションで観たかった!! 今の技術ならできるのでは? ヘンリー・ダガーのイラストもDVDの中でアニメーションしていたぞ。
 とにかく子どものイラストが可愛い。愛がいっぱい。見ていて飽きない。シンデレラなど有名なディズニーアニメ、コンセプトデザインでのキャラクターの方が可愛い。このキャラクターでアニメしていたら、ディズニーのファンになってた。
 実際の展示を観に行きたかった。こういうとき都市部を本当に羨ましいと思う。

2010年4月27日火曜日

真空の海に帆をあげて (ハヤカワ文庫)

アイザック・アシモフ著 山高昭訳
アシモフの科学エッセイ。未来論。

 収録されているエッセイは、短いので読みやすい。現在のナビやメールの予見のようなもの、夢に対する占い・精神分析に対する皮肉、現在にも続く森林、水の問題等、幅広く述べられている。20年以上前の作品なので、新しい発見や状況の変化等で古くなっているものもあるが、十分楽しめると思う。しかし、アシモフもやはり考え方はヤンキーなのだと思う部分も多かった。よくも悪くも。

2010年4月26日月曜日

明治風物誌 (ちくま学芸文庫)

柴田宵曲著
明治への懐古、文人たちの逸話等を収めた随筆。

 文が穏やかで淡々としていて、人柄を感じさせられる。一所懸命読む必要はないけど、丁寧に読みたい一冊。知る人が少なくなった明治の時代に思いを馳せてみるのもよい。
 蘊蓄がいっぱい。本当に自分が物知らずと思い知らされる。 落語の「動物園」「コックリさん」舶来ものだったのか。筆ペンの類いのものが既に明治時代に存在した事ことも驚いた。「宵曲先生のこと」として池上皓山人氏が書いてみえるが、感銘を受ける受けるところが多かった。天覧試合のことについては、ちょっと笑った。まあ出来過ぎといえばできすぎだけど。

2010年4月25日日曜日

見果てぬ時空 (ハヤカワ文庫)

アイザック・アシモフ著 山高昭訳
アシモフの科学エッセイのシリーズ。この本では化学と天文学について述べられている。

 理系は本当に苦手、特に化学は。そんな私にも分かるように説明されていて、読みやすい。小さいお子さんにもお薦め。分かりやすいだけではなく、ユーモアを入れながら軽快に語りを進められている。化学の中でも、生化学は興味を持って読んだ。ビタミン不足による病気、奥様方が大好きなアミノ酸等々。天文学は難しくても楽しい。欧米のサマータイムについて述べられていたけれど、あれは本当に省エネの為に行われたのか。省エネは名目で、商売目的がメインだと思っていた。で、効果はどのくらいあったのだろう?

2010年4月24日土曜日

今日の積ん読

イタリアのおもかげ ディケンズ著 岩波文庫

今月はこれ以上買わないぞ!絶対だ!

現在の積ん読 本:253冊
DVD:99枚


 iPadが話題になっている。雑誌等の配信も行われるようだが、出版社の売り上げ増加につながるのか、結果に興味がある。私はというとiPadはね…。Appleが嫌いではない、一応軽いマック信者ではあるし、何というか時代の先端をいくような生活してないから、今のところ必要ないといった感じ。BDがついてるなら買ったけど。電子書籍を読むために購入する人もいるだろうけど、液晶というのが引っかかる。長時間読み続ける事もあるので、目の事を考えるとちょっと…。どちらかというと電子インクのキンドルの進化に期待している。iPad、5月発売だったかな。発売時の祭に期待したいところ。

2010年4月23日金曜日

チェコスロヴァキアめぐり カペル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

カペル・チャペック著 飯島周編訳
チャペックのチェコスロヴァキア国内旅行記。

 もっと毒気が強いものかと思っていたが、そうでもない。祖国に対する愛に溢れている。もちろん社会批判等もある。「警察の手入れ」は胸が痛む。チャベックも解決策を提示していない。できないよね。金を渡しても酒と賭博あたりに消えていくのだろうし。こういうのは世界共通のような。日本のなんとか村でも酒とパチンコに (笑)。
 土地それぞれの話、人々の生活、植物など収められているので、空想の上のチェコの旅を楽しむのに良いと思う。
 

2010年4月22日木曜日

ブラウン神父の秘密 (創元推理文庫)

G・K・チェスタトン著 中村保男訳
ブラウン神父の探偵譚。

 アメリカ人、ぼろくそ云われているような…。著者が云いたいことも理解はできるけど。「マーン城の喪主」が面白かった。成り代わりだなとはすぐ分かったけど、最後が良かった。p267「あなたがたは、ご自分の趣味にあった悪徳を許したり、体裁のいい犯罪を犯罪を大目に見たりしながら、桜草の咲きこぼれる歓楽の道をずんずんお歩きなさるといい」全部を読まないと台詞の意味は理解できないとは思うけど、私はちょっと考えるところがあった。

2010年4月21日水曜日

ゲーテッド・コミュニティ (集文社)

エドワード・J・ブレークリー メーリー・ゲイル・スナイダー著 竹井隆人訳
自分の住んでいる地域の安全、環境を守るために、人びとはゲートを設置している。その是非について考える。

 6章までは面白かった。日本でもゲートができてニュースになっていた記憶があるし、興味深い。問題は7章から。どっかで読んだような事柄、言葉が羅列してあるだけのように感じた。解決策を安易に提示ではないのは分かるのだが、おざなりだなと。
 自分はゲートを選択する人々の気持ちが理解できる。アメリカに住んでいて、それを選択できる収入があるのならそうするだろう。今2010年、ゲーティド・コミュニティはどうなっているのだろう。本書の中にカリフォルニア州の名前を何度か見たが、破産寸前だし、興味がある。
 自分の周囲を考えてみたら 、山という自然のゲートに囲まれていてるな。不便で積雪、熊もイノシシもでるけど、外界からの不安からは守られている。

2010年4月20日火曜日

ブラウン神父の不信 (創元推理文庫)

G・K・チェスタトン著 中村保男訳
ブラウン神父シリーズ、アメリカ編。

 フランボウがでてこない。何だか寂しい。「ブラウン神父の復活」奇蹟とかこういう風に作られるのかもね、と思った。他人に成り済ますトリックが多い気がする。どうしてもシリーズが長くなるとパターン化する傾向があるのかな。

2010年4月19日月曜日

医学と芸術 (平凡社)

医学と芸術展:生命(いのち)と愛の未来を探る」という展示会の関連商品。

 古い時代の解剖図等に惹かれて買った。人間の機能は本当によくできているんだ、と改めて感じるとともに、物質でもあるんだとも思った。この自分と思っているものも、脳による機構の一つなんだ。あんまり深く考えたくない。
 p96の白宜洛氏の作品、分かりやすくて好き。テーマも一般人に身近で、考える事も多い。あとp139で、1850年代に日本で乳がんの手術が行われていたことに驚いた。でも、絵の方は大量出血なのだが…。p179の義足、不思議な感じ。小説や漫画に出てくるサイボーグのようだ。これは褒め言葉。とてもいいと思った。p157からの写真、赤ちゃんは見るのがつらい。被写体になった人たちの安らかな顔が救いかな…。
 他にもいろいろ興味深いものが多々ある。 面白かった。

2010年4月18日日曜日

ブラウン神父の知恵 (創元推理文庫)

G・K・チェスタトン著 中村保男訳
神父探偵シリーズの2冊目。

 本当に無神論者が嫌いなんだ。徹底してて笑えてきた。西欧人は無神論者を嫌うそうだけど、なぜだろう。信仰の自由はあるけど、信仰を持つ持たないの自由はないのか? 
「紫の鬘」が面白かった。背表紙にお薦めが書いてあるけど、そういうのが意外と今一だったりする。あくまで私の好みでだが。

2010年4月17日土曜日

伽藍が白かったとき (岩波文庫)

ル・コルビュジェ著 生田勉 樋口清訳
ル・コルビュジェのアメリカについてのエッセイ。

 戦う芸術家という印象を持った。自分の信念を貫こうという生き方に敬服する。都市計画とかよく知らないのだが、著者が述べたい事は理解できる。土地の有効利用、時間の無駄を省く、自然のある環境…。1900年初頭、こんなにアパートメント( でいいんだよね )に抵抗があったとは知らなかった。価値観の変換期だったのかな。パリのような古くからの都市だと、変わりたいとは思わないのだろう。伝統とか素晴らしいとは思うけど、変化に柔軟にはなれないという欠点は困ったもの。著者にはアメリカは可能性の場所だったのか。でも、その本質をきっちり見抜いていた。p276「20世紀は人のために建設したのではなくて、金のために建設した」アメリカだけではなく、世界中がそのなってしまった。それが21世紀にも引きずられている。
 結局アメリカは横に広がったままだ。おまけにゲートでの仕切りを置くようになった。日本は?一時有名建築デザイナーの設計が売りの建築物がやたらあったけど、保全が全然できてなくて惨めな姿をネットでさらされてたり、問題点が報じられたりだった。デザイナーズとか昔もてはやされたけど、まさしく「金のために建設した」に当てはまるだろう。

2010年4月16日金曜日

ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

G・K・チェスタトン著 中村保男訳
神父さんが様々な事件を解決していく。

 うーん…。神父さんが主人公なのは分かっていたけど、何というか全編が "カトリック以外は糞" みたいな偏見で貫かれているとは思わなかった。内容は面白いだけに残念。シリーズ物を買うときは必ず一冊買って読んでから続きは買うようにしよう…。私から私への約束だ。
 一話目に出てきたヴァランタンが二話目で死んでしまったのに驚いた。てっきり相棒役となっていくのかと思っていたから。元盗賊フランボウが相棒となるのだが、この人探偵になったとたん灰汁がなくなった。よく漫画で、敵のときはやたら強かったのに味方になったとたん弱くなるパターンがあるが、そういう感じ。推理ものとしては、ちょっと強引では?と思うところ多々あり。あと私みたいな推理ダメダメでも展開が読めてしまう…。この作品は後続のミステリーの基礎というか影響を与える基となっているのだから仕方ないか。古典なのだから。でも、面白さと雰囲気の良さに引っ張られて読むことができた。うん、面白いんだけどね…。

2010年4月15日木曜日

今日の積ん読

南イタリア周遊記 ギッシング 岩波文庫
ヘンリ・ライクロフトの私記 ギッシング 岩波文庫
医学の歴史 梶田昭 講談社学術文庫

 やっと250冊台が見えてきたと思いしや、また積ん読が。今月は後岩波文庫の新刊一冊買って終了。通販で買うからブックオフにもついでに行くこともないし。絶対にない!来月は特にめぼしい新刊なし。DVDは「まぼろしの市街戦」予約してあるけど、本がないのはちょっと寂しい。積ん読解消に邁進しよう。 

現在の積ん読 本:264冊
DVD:99枚

2010年4月14日水曜日

魔術的リアリズム (ちくま学芸文庫)

種村季弘著
1920年代、ドイツに現れた「魔術的リアリズム」もしくは「ノイエ・ザハリヒカイト」と呼ばれる表現形式について…だと思う。自信はない。

「ノイエ・ザハリヒカイト」と呼ばれた絵画が掲載されているが、どれも無関心というか、孤独…なんか違う気がするけど、現代の人に好まれそうな気がした。私は好き。ちょっとアニメっぽさがあるし。特に「グロスベルグ」がよい。実物が見たい。
 説明については、そうなのか、と頷くしかない。私の頭なのでご勘弁。だからといって、難しい芸術談義というわけではない。ちょっとかまえて読み始めたのだが、図を参照しながら楽しく読めた。説明がすごく分かりやすい。興味を引き立てられた。

2010年4月13日火曜日

ゾロアスター教 (講談社学術文庫)

メアリー・ボイス著 山本由美子訳
ゾロアスター教の歴史を考察。

 石器時代から…古い宗教だったんだ。現代まで残った事にびっくり。火だけではなく水も信仰の対象なのも初めて知った。
 しかし、宗教って終末論が好きだな、石器時代から現代まで大概の宗教で述べられていることになる。常に恐怖で支配ですか。呆れる。あと、近世になってオカルト色を持つ宗派が出てきているのが気になった。古い時代なら異端ということで締め付けられてきたのが、緩んできたのかな。何かどの宗教も似たり寄ったりな事している。迫害して迫害されて、死後の世界も金次第というような教えで信徒の生活を圧迫したり。
 移住を繰り返してきただけコミュニティのつながりが強そうだ。インド国民というよりゾロアスター教徒としての意識の方が上なのか。
 本を読む限りでは一神教である事へのこだわりがすごい。このあたりは日本人には分かりにくい。逆にあちらも日本人の宗教観は理解できないだろうけど。なんせ八百万の神様がいる国の国民だから。

2010年4月12日月曜日

ルネッサンス巷談集 (岩波文庫)

フランコ・サケッティ著 杉浦明平訳
ルネッサンス期の滑稽話集。

「デカメロン」とよく似た滑稽な短いお話が収録されている。気楽に肩の力を抜いて、難しく考えずに楽しむべき本。自然と時代の空気、人々の生活が伝わってくる。現代の感覚だと、ちょっと…と顔をしかめるようなお話もあるけど、気にしない気にしない。でも本当にこんな事が起こっていたのかな。

2010年4月11日日曜日

柳田國男集 幽冥談 (ちくま文庫)

東雅夫編
柳田國男の著作から、怪異にまつわるものが収録されている。

 最初で躓いた。p10「小説的に嘘を嘘として書いている」意味が分からない。ポーも泉鏡花も小説だし、的って?ノンフィクションでない限り小説は嘘だし、そんな事は百も承知だろうけど、なぜこんな表現をしているんだ?「嘘」という言葉の連発に引いた。
「遠野物語」は 面白かった。こういうお話は大好き。しかし後は…。何だか結論への持ってい方に疑問が。ワンステップ跳んでないか?という印象。私の頭が悪いだけだな。
 基本的に合わない作家なのかもしれない。有名で評価が高い作家でも面白みを感じない場合があるから。著者の著作、何冊か買ってしまったんだけど、困った…。

2010年4月10日土曜日

今日の積ん読

チェコスロヴァキアめぐり カレル・チャペック 岩波文庫
心 ラフカディオ・ハーン 岩波文庫
蜘蛛の巣の家 上・下 ギッシング 岩波文庫

 本屋で、通販では絶版になっている「蜘蛛の巣の家」を発見。岩波書店は基本が本屋買い取りだから、こういう嬉しいことがある。これだから岩波文庫が置いてある本屋巡りはやめられない。本屋さんは大変だろうけど。「心」は迷いまくった結果購入。 チャペックは面白かったので、もう一冊買ってみた。

現在の積ん読 本:266冊
DVD:99枚 


 私の住んでいるところは山の中なのだが、昔ある街道が通っていたので、季節が良くなると時折ハイキングの団体が通っていく。たいてい中高年の人たちなのだが、今日初めて外国人を見た。白人系の人。こんな山奥もだんだんと国際化していくのかと大袈裟に考えてしまうのだった。

2010年4月9日金曜日

山椒魚戦争 (岩波文庫)

カレル・チャペック著 栗栖継訳
SF小説の古典。山椒魚が進化し、世界侵略を開始した。

 内容は同じ著者の「ロボット(R.U.R)」と同じ。ロボットが山椒魚に変わっただけ…なのだが、とにかく比喩やら皮肉やらの詰め合わせ。知識無しが読んでも面白いのだから、歴史を知っている人が読めばもっと楽しめるのだろう。企業や国の倫理、大衆の問題点は現代にも十分当てはまる。さて、現実は山椒魚を進化させ人類を片隅追いやるか?現実の山椒魚は何だろう?この小説、最後は著者が自分自身と対話して結末を導きだすのだけど、この結末がこの小説の結末でいいのかな。
 訳者の思い入れの強さに敬服。解説やあとがきに作品に対する愛が溢れ出している。訳注もいい!蘊蓄として楽しめる。訳注を必要ないという人がいるのか。必要だろ。私みたいな知識無しも読むんだぞ。
 これは右翼にも左翼にも嫌われた素晴らしい作品なので、ぜひ読んでほしい。結論としては、ソ連はケツの穴が小さかった (笑)。そして岩波文庫は製本汚い。なんで私はボンド山盛りに当たるんだろ?

2010年4月8日木曜日

隣の病 (ちくま学芸文庫)

中井久夫著
広栄社から刊行された「精神科医がものを書くとき」に収録されたエッセイ群の文庫化。

 ちくま学芸文庫「精神科医がものを書くとき」の続編。解説の人が前著は硬で今回の文庫が軟と述べてみえるが、私は逆の印象。前半はお手上げだった。面白いのは分かるんだ。もっと知識があればな…。ロールシャッハ、箱庭、コラージュ等を用いた治療の話は興味深い。
 後半は少し軟になる。「阪神大震災後四ヶ月」が心に残った。どうしても大掛かりな救出や火災などが優先で報道されて、精神科医の先生の地道な活動は余りニュースに載らないから、よく知らなかった。考える事の多いエッセイだ。
 最後のギリシャ現代詩、1%になれなかった。飛ばし読みになってしまった。

2010年4月7日水曜日

ユートピアだより (岩波文庫)

ウィリアム・モリス著 松村達雄訳
社会主義者の理想のユートピア。夢想無双。

 何というニート天国!これでネットがあれば最強!報酬は創造の喜びとかいうけど、そんなこと興味ない人間は、ひたすら遊んでいると思う。私なら働かない。
 これを読み始めて "よく似たの読んだ事ある" と思った。サドの「食事国旅行記」。あれと同じような話が一冊分と思って目眩がした。どちらもユートピアなんだけど、芸術に関する点が大きく違う。サドは芸術否定、こちらは芸術万歳。私はサドの方に好感持った。そういえば、こちらは同性愛については一言もなかったような。
  というか、完全に夢想の世界。気持ち悪いくらいの性善説。ここの世界の人たちも結局自分たちの考えに合わない存在はおかしい、という考えを持ってるように思えた。いつの時代も人間は変わらない。十九世紀から現代に至って下層言われる仕事をしている人々がやたら派手に黄金等を身に付けているような表現も多く、下層の人々を揶揄しているように読める。表紙の解説で「この物語に不思議な明るさを与える。」とあるけど、病んでる明るさでは…。
 いつも思うのだが、芸術家という人たちがやたら社会主義好むのはなぜ?別に資本主義、民主主義が素晴らしいとも思ってないけど、この傾向は不思議。

2010年4月5日月曜日

怪談・奇談 (講談社学術文庫)

小泉八雲著 平川祐弘編
小泉八雲の怪談話。他エッセイのようなお話。各怪談の解説、原拠付き。

 講談社学術文庫版怪談。怪談は岩波文庫版とちくま文庫版に掲載されているものと変わりない。各物語ごとの解説は、へーへーみたいな感じで良かった。後半のエッセイは初めて読んだ。「薄明かりの認識」「ゴシックの恐怖」、微妙に怖いものが面白い。南国の暑いところならではの恐怖がよい。

2010年4月4日日曜日

ロボット(R.U.R) (岩波文庫)

チャベック著 千野栄一訳
SFの古典。ロボットが感情を持ち反乱を起して、人間を滅ぼしてしまう。戯曲。

 話自体は単純でありふれたもの。それは時代が過ぎたためで仕方ない。だが面白い。キャラがしっかり立っているというか、登場人物はみんな変なんだけど変が面白い。何かネジがずれてる。女性の描き方が19世紀前後の小説の典型的な女性像で笑えた。美人なんだけど愚かで感情でのみ行動する、わざとそういう描き方しているんだろうけど。ヘレナ、うざすぎて面白い。
 チェコの小説家だし、思想とかいろいろありそうだけれど、そういう事考えずに一度読んでほしいと思う。小説も面白いけど、舞台で見てみたい。アニメーションでもいいと思う。チェコの人形アニメでぜひ。

2010年4月3日土曜日

ユニオン・クラブ綺談 (創元推理文庫)

アイザック・アシモフ著 池 央耿訳
爺さんの推理自慢。過去に起こったという事件をいかに自分が解決したかを語る。

 一話一話が短いので読みやすい。推理も分かりやすい。私のような推理ダメダメな者にも楽しめる。ただ推理の内容が英語の文字等に関わるものが多目で、英語ダメな私にはさっぱりな話もあった。本格派の推理小説を望む人向きではないと思う。
 情報機関での推理話が多いのだが、一般人が持つ情報機関のイメージのままで信じてしまいそう。難事件を誰かに相談するかどうかは別にして、こういう事件は実際ありそうと思わせるのはうまいなー。
 ただ、どうしてもヘンリー ( 黒後家蜘蛛の会 ) と比較してしまう。正直、ヘンリーの方が面白い。何というか結末に爽快感を感じなくて。うーん。

2010年4月2日金曜日

ゴンクールの日記 下 (岩波文庫)

斎藤一郎編訳
ゴンクール兄弟の私生活、取り巻く世相、宮廷、芸術家の面々が日記に描き出されている。


 作家、いや芸術家の自己顕示欲の凄まじさ。ゾラ、顕示欲の固まりのように描かれていて、ちょっと笑えた。有名作家が一般常識から外れた事をブログで威張って書いて話題になる事あるけど、これを読むと "そういう人たちなんだ" と理解できる。一般人は関わるべき世界じゃない。よくこんな世界に生きてるな、想像つかない。
 この日記の出版がよくできたなと思う。反発喰らうのは目に見えているのに、怖くなかったのだろうか。ゴンクール本人の意図がどうであれ、書かれた側がどう受け取るかはわからないのだし、実際告訴されている。
 今回の文庫は抄訳だが、元々の日記自体全て出版されているわけではないそうだ。もう百年経っているのだから公開してほしい。子孫は芸術家のイメージというけど、百年経って名前が残っている人物は性格も素行も研究されているし、消えた人物は再浮上のチャンスじゃないか?
 ジャーナリズムについて、ゴンクールは日記上で常に攻撃を受けていたように述べている。失敗すると攻撃され、出来が良いと批評されないと。述べられている通りだとすると、今も昔もジャーナリズムは変わらないということだ。何公平顔しているんだろう。 
 とても面白く読めた。下巻は日本の話も多く述べられていて、興味深かった。

2010年4月1日木曜日

若きウェルテルの悩み (岩波文庫)

ゲーテ著 竹山道雄訳
空気が読めない男が愛に苦しみ、自殺する話。

 悲劇、うん悲劇なんだけど笑えた。本当に私はこういうの向いてない。ウェルテル、最初から最後までロッテとやりたいと言っているとしか思えなかった。p138「もし誰かがあの男の逃亡を幇助することがあったら、それを不問に付していただきたい」逃亡させたいけど、自分は罪に問われたくない。しっかり逃げをうってる。あとp112からの妄想レイプ野郎の話の辺りなどは爆笑した。しかし文章次第でレイプも芸術的になるのだ。感心した。
 ロッテも夫は夫で置いといて、お気に入りのウェルテルも側に置きたい、結局一番ヤバい自己中心型、でも何とか自分を安全圏に置こうとしている。とにかく普通の人アルベルトが気の毒な話だった。嫁さんに恵まれなかった悲劇。
 この本が出版されて自殺が流行したと解説にあるけど、ナルシス多い時代だったんだ。いや、今もタレントの後追い自殺とかあるから変わらないか。本、映像なんかで影響されても、生活に戻って食事してトイレで大きいのしてなんてしてたらバカらしくならないかな?