2016年5月29日日曜日

団扇の画 (岩波文庫)

柴田宵曲著 小出昌洋編
 (カバー裏より抜粋) 宵曲が親近し、その精神形成を培った隠逸の先人たちの思い出を綴った文章は、古き良き趣味人たちの面影を彷彿させてやまない。

 エッセイではない、これは随筆です。
 三部に分かれていて、一部は昔から伝わる逸話、物事をテーマに。二部は食べ物について、三部は著者の知人の話。正直に言います。一部と二部は面白かった。三部が今ひとつでした。特に一部が面白かった。私が昔話の類いが好きなためもあります。落語になっている話「そば清」「のざらし」などの元の逸話について語られていたりもします。「杜子春」は元の杜子春について語られていて、とても興味深い(芥川龍之介版が正伝だと思っていました。恥ずかしい…)。
 二部は食べ物のお話。「桑の実」ってなに??「甘藷」サツマイモはこんな上品な名前だったのか!等々、著者の時代では当たり前だったことが、今の時代ではとても新鮮です。三部は「古き良き趣味人たち」の話です。が、何となくつまらなく思ってしまいました。私の興味の問題です。
 この随筆集の中で好きな言葉をひとつp18「真の科学は宇宙の不思議をなくするものではないらしいのに、浅薄な科学の洗礼を受けた人は、好んで不思議を否定するような口吻を弄する」ですよね〜。 
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2016年5月20日金曜日

ポーに捧げる20の物語 (ハヤカワ文庫)

スチュワート・M・カミンスキー編 延原泰子訳
(カバー裏より抜粋) ボー生誕200周年記念アンソロジー。ホラーやユーモア・ミステリ などヴァラエティ豊かな20篇を収録。

 エドガー・アラン・ポーの作品やポー自身をテーマにした作品を集めた短篇集。ポーの作品を知らなくても読める…とはちょっと言い難いかな。「黒猫」あたりは知っている人も多いだろうけど。探偵ものの祖といわれていますし、彼の作品を元にした映画も多く作られています。ちょっと読んでみても面白いと思います。創元推理文庫から作品集が出ていますので、興味を持たれたらぜひ。
 で、この短篇集。実は始め通しで読んだ時は「イマイチ」。そういう時はひと月以上寝かせてから再度読みます。それでダメなら「さようなら」古本屋へ。この短篇集は2回目は面白く読めました。理由はわかりません。もちろん個々の作品により好き嫌いはありますが。で、今回のお気に入り「告げ口ごろごろ」祖母の財産を狙う孫が、祖母を恐怖に陥れて発狂死を狙う…ものの大失敗、そこまではお笑いだけれども、孫は少しずつ…。 「ネヴァーモア」これは静かな作品。ポーの作品を作中に用いた形。死に向かう父との誤解を解き寄り添う息子…。っていうか、父が浮気したように誤解を与えて育てた母親サイテーとかそっちに思考が行ってしまった…。「エミリーの時代」エミリー逃げてー、な作品。自己肥大した教授とその投影である猫ピージーの物語…。「告げ口ペースメーカー」告げ口心臓のパロディ…オマージュ??主人公の狂気が面白い。他も面白い作品が揃っています。ただしポーの作品ではありませんので、それを念頭に置いて興味を持たれた方はご一読下さい。
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2016年5月15日日曜日

うまい犯罪、しゃれた殺人 (ハヤカワ文庫)

ヘンリイ・スレッサー著 高橋泰邦訳
 (カバー裏より抜粋)ヒッチコックが愛した短篇の名手スレッサー。その傑作群から、ヒッチコック自身が精選した十七篇を収録した、珠玉の短篇集

 各短篇ともそのまま映画になりそうな内容ばかり。後味の悪い作品が多いのですが、上手く言えないけど、スマートに終わらせているというかまとめているというか。で、各短篇の主人公の性格、ヤバいのばかりです。解説の方は魅力的と書いてみえますが、ある意味魅力的かもしれないけど、こんな人達が周囲にいたら嫌ですけど、私。
 個人的なお勧めは「逃げるばかりが能じゃない」20万ドル横領した主人公がお金を預金して自首、出所後二十万ドルを返還、でも多額の貯金の利子を得た…。12年間、20万ドルで8万ドルの利子…。アメリカではあり得るのか??実はそこに頭がいってしまってww 「恐ろしい電話」登場人物がどこにでもいそうなタイプで怖い。他人の行動を監視し、気に染まないと邪魔に走る人、いませんか?「競馬狂夫人」競馬の借金が返せなくて寸借詐欺、お金を手に入れたら天啓(言葉のキーワード) を得てまた競馬。詐欺はともかくあるあるだなーと。他の作品もかなりドロドロだけれどそれを感じさせない軽快さ(なのかな)で楽しめます。

2016年5月13日金曜日

ジャック・リッチーのびっくりパレード (ハヤカワ文庫)

ジャック・リッチー著 小鷹信光訳
(カバー裏より抜粋) 100%予想不可能なほどの〈びっくり〉が保証付。日本初訳25篇を集めたオリジナル短篇集。

 またまたジャック・リッチー作品です。実はかなり好き。この短篇集は発表年代別に構成されています。作品の変化を御堪能下さい。で今回の作品集のお勧めは「洞窟のインディアン」一番最後に掲載されている作品で、他の作品の軽快さの後だとかなり雰囲気の違いに驚かされます。(この作品は未完で息子さんが手を入れられたものです。)何というか締めくくりに相応しい作品と感じました。死に場所を求めて逃避…主人公にめちゃ共感してしまいました。他「カーデュラ探偵社」ものもあり、自分が殺した女の幽霊にできてしまった男の話「帰ってきたブリジット」も面白い。幽霊に嫁さん面されてますww ヘンリー&ラルフのシリーズもあり。〈びっくりパレード 〉というタイトルに相応しい内容となっています。

2016年5月9日月曜日

ジャック・リッチーのあの手この手 (ハヤカワ文庫)

ジャック・リッチー著 小鷹信光訳
(カバー裏より抜粋)巧みな展開と伏線、おとぼけなユーモアセンス、してやられたと感嘆する結末が待ち受ける!ーあらゆる手段を用いた絶品23篇収録のオリジナル短篇集。

 ジャック・リッチーの短篇を内容ごとに分類して楽しめるようになっています。どの作品も軽快で楽しい作品です。推理小説が苦手という方でも大丈夫。推理小説というよりユーモア小説(ってジャンルあるのか?) といって良い(良い意味で) 作品ばかりです。個人的なお気に入りは「保安官が歩いた日」。閉ざされた地域の保安官の妻が失踪!その地域を訪れた主人公に周囲は「保安官が妻を…」と噂話。その主人公の正体は…。「子供のお手柄」も好きですね。日本人では謎解きはまず難しい、アメリカ人でもなかなか難しいのでは。とにかくどんでん返しというかオチが楽しい作品ばかりです。ぜひご一読を。

2016年5月4日水曜日

なんでもない一日 (創元推理文庫)

シャーリイ・ジャクスン著 市田泉訳
(カバー裏より抜粋) 家に出没するネズミを退治するため、罠を買うように妻に命じた夫が目にする光景とは…ぞっとする終幕が待ち受けるネズミ。

 この著者の作品に、気持ちの良いラストを求めてはいけません。気持ちが凍るまたは憮然とするラスト…を覚悟して読んで下さい。推理というより心理ホラーと言っていいと思います。トップの「スミス夫人の蜜月」Ver1と2がありますが、私はVer1押し。予感して待つ主人公より、無邪気なまま終わりに突き進むほうに怖さを感じます。「なんでもない一日にピーナッツをもって」はとても親切な主人公の気持ちのいい一日と思いきや…。「メルヴィル夫人の買い物」などはこんな客実際いるし…みたいな怖さが…。どの作品もいろいろな意味で楽しませてくれます。登場人物達のヤバさといったら、もうね…。ハッピーエンドを求める方は読んではいけません。あと鬱気味の方も絶対ダメ!!心理ホラー好きの心身とも健康な方にお勧めします。

2016年5月3日火曜日

火星タイムスリップ (ハヤカワ文庫)

フィリップ・K・ディック著 小野芙佐訳
(カバー裏より抜粋) 水不足に苦しむ火星植民地で暮らすジャックは、イー・カンパニーの修理工として毎日ヘリコプターで各地を飛び回っていた。

 途中、頭を混乱させてくれるました。あれ?同じページ読んでる??って。私も幻覚に入り込まされてしまいましたww 主人公はジャックですが、傲慢アーニー、自閉症少年マンフレッド(自閉症はフィリップ定義の自閉症です)、その他脇役の行動も濃く、主人公影薄い。で、みんな精神がアレな人ばかり。ディックの作品だから仕方ありませんが。健康なのはジャックの妻シルヴィアぐらいか。山師で火星の土地に投機するジャック父レオもテレパシーとか言ってるし。キーワードはマンフレッド。彼は自分の未来を見て恐怖し、未来予知に周囲が振り回され、その幻覚に侵されていく。ラストは中々でした。主人公がまともになってしまったのが意外でした。あと解説の人、なんか解説になっていないような…ww

2016年5月1日日曜日

秘書綺譚 (光文社古典新訳文庫)

ブラックウッド著 南條竹則訳
(カバー裏より抜粋) 芥川龍之介、江戸川乱歩が絶賛したイギリスを代表する怪奇小説作家の傑作短編集。

 この作品はアマゾンのおすすめ商品で気になって購入した一冊です。レビューのひとつに古くさいみたいなことが書かれていたので、私向けか?とピンときて。結果正解!!古くさいというより古典です。ジム・ショートハウスのシリーズをメインにその他作品が掲載されています。ジム・ショートハウス、なかなか面白いし私の好きなキャラクター!ちょっと自信家で注意深く事件を切り抜ける…と思っていたら、最後が…でした。でも人間の脆さが感じられてよかったかも。こういうキャラクターのシリーズで、惨めなラストは珍しい気がします。あと、すっきりしないラストの作品が多いような。「炎の舌」のようなグリム童話にあってもおかしくないようなお話もあり。(これは他人の悪口ばかり言っている二人の舌が…というお話) この短編集を読んで恐怖を感じるか?と言われたら否ですが、万国共通の人の業のようなものを感じるのです。訳者の方が上手いのか読み易いのもよかったです。