2010年11月29日月曜日

売春の社会史 上・下 (ちくま学芸文庫)

バーン&ボニー・ブーロー著 香川檀・家本清美・岩倉桂子訳
売春の歴史を綴りながら、男女間の社会問題を浮き彫りにしていく。

 アフリカで、処女とセックスするとエイズが治るみたいな迷信があるそうだが、迷信の発祥は欧州かよ…。少女売春に関しては、マジ吐き気する。p242の匿名の手記の内容って、某巨大掲示板の書き込みと変わらないレベルじゃね?こういうのが今もいるんだろうと思うと…プロ市民の運動は嫌いだけど、何とかならないかとは思う。
 売春の歴史と男女間のことは面白かった。時代が進むにつれての男女の関係の変化、二重規範、当然宗教や性病も関わってくる。金で囲われている愛人と売春婦の違い…改めて考えると確かにどこが違うのかと。ま、美貌、知識、礼儀作法を兼ね備えた娼婦って憧れてしまうのも本音だけど。で、既にというか大昔から身動きがとれない状態が出来上がっていた。要は売春は無くならないし、対策も無い。p352に著者が結論を述べているけど、個人の裁量に任せるというような内容。ここまで引っ張ってこの結論??と思った。

2010年11月26日金曜日

幕末百話 (岩波文庫)

篠田鉱造著
幕末の庶民の生活を採集。激変期の日本の大衆が浮き上がる。

 うーん、大変な時代だったんだ。江戸末期当時の 思い出話を採取しているので、記憶に個人的な修正は入ってはいるのだろうけど、それを差し引いても怖くて面白い…語弊があるかもしれないけど興味深い時代だと思った。町人の話だけではなく、大名の生活の話もあり、戦争もある。第三者として読んでいるから、官軍幕府軍どっちもどっちだと思えるけど、この時代に生きた人は必死だったのだろう。軽い語りで綴ってあるが、中々重い話もある。これは江戸を中心とした話ばかりで、地方はどうだったのだろう?
 現代は?と考えれば、形を変えて繰り返しているような気もする。侍は…威張っているところが議員とか、商人はやっぱり商人だし、町人は大衆として生きている。私たちも大変な時代を生きているなんて思っているけど、この時代に比べれば…かな。ま、戦争だけは勘弁かな。…別に私は左でも九条信者でもないので念のため。

今日の積ん読

幕末百話 篠田鉱造 岩波文庫
明治百話 上・下 篠田鉱造 岩波文庫
アレクサンドリア E・M・フォースター ちくま学芸文庫

 アレクサンドリア、文字が大きい。見た目、スカスカなのだが…。
 ソニーが本当に電子書籍リーダーを発売するとのニュースが。嬉しい!!ちょっと様子みて買うつもり。キンドルの日本発売はなさそうだしね…。

現在の積ん読 本:190冊 DVD:80枚

2010年11月23日火曜日

私の個人主義 (講談社学術文庫)

夏目漱石著
夏目漱石の講演から五本収録。

 講演が収録されているのだけれど、決して難しいことを述べているわけではなく、分かり易く理解し易い。だが、夏目漱石の理想とするところを実践できる人間はどれほどいるだろうか。「道楽と職業」のp25はとても良い例。要約すると、夏目漱石は博士の授与を断った。理由は博士というのは偏っているから。ここで会場から拍手…そうだよねという同意の拍手だろうけど、それに対して漱石は、「明石に医学博士が開業する、片方に医学士があるとする。そうすると医学博士の方へ行くでしょう。いくら手を叩いたって仕方ない、誤摩化されるのです。」はい、すいません…としかいいようがない。
 漱石は明治時代の人だけれど、現代にも十分通用する内容。こういう講演ならぜひ聞きたいなと思う。ま、私はちょっと意見が違うかな、とか思う部分もあったりするけど、そういうのも明治と現代、個人の背景を考えて考察してみるのも面白いと思う。

2010年11月19日金曜日

悪霊論 (ちくま学芸文庫)

小松和彦著
「異人論」をメインに、それに関連した著作を掲載。日本人の「闇」を探る。

 まず思ったこと。情報の採取について。これが聞き手次第で元の形を損なってしまうということ。民俗学や人類学などの採取においてはもちろんのこと、何気ない日常の会話でもあり得ることだから、考えないとと思った。
 「村はちぶのフォークロア」…思い出したのが「名張毒ぶどう酒事件」。犯人云々は置いといて、分かんないし、ここでの村八分の件は、私程度が知っているのだから有名といっていいんだろうな。典型的な例と言っていいと思う。Wikiで読んだだけだし、どこまで本当か分からないけど。
 節分の話は興味深かった。というか、某スーパーが節分は年に二回とか宣伝していたという話を聞いたけど、半分本当で半分嘘。実際は四回だそうです。立春、立夏、立秋、立冬…節分だったのか。この中でたまたま行事として大きくなったのが立春。やっぱり春だしね。で、この著作を読む限り、巻き寿司はやっぱり近年のものだろうなという印象。こうやって行事の意味も内容も変わっていくのかな、良くも悪くも。
 日本人の「闇」…外国とはひと味違う闇を垣間みることの出来る一冊。今はかなり表面上薄れてはいるけれど、無いとは言えない。一般人でもちょっと濃いエッセイとして楽しめる一冊。

2010年11月16日火曜日

最新世界周航記 上・下巻 (岩波文庫)

ダンピア著 平野敬一訳
 十七世紀海賊が、航海を重ねながら綴った手記。

 海賊の手記、イギリスという国自体が海賊を奨励していた時代だったような。文章自体は淡々とした印象。訳の人がそういう文章を書く人なのか、元々そんな感じなのか分からないけど。略奪やら戦闘やらをやっているのだけれど、簡単に物事が起こりすぎているような感じを受けてしまう。実際は酷い状態なんだろうな。内容は海賊行為の他自然、風俗やらの記述が多く、とても興味深い。ウミガメさん、食べられ過ぎ。ダーウィンも航海の手記を書いているけれど、こちらの方が読み易いかな。著者の「自分はこんなに判断力等に優れているぞ」という感がちょい鼻につく気もした。

2010年11月12日金曜日

銅版画 江戸川乱歩の世界 (春陽堂)

多賀新
多賀新の銅版画とともに、江戸川乱歩の作品の世界を覗きみる。

 江戸川乱歩の作品解説とともに、春陽堂が出版している江戸川乱歩文庫の表紙を飾る多賀新の銅版画が掲載されている。江戸川乱歩の作品は短編の一部しか読んでいないのだけれど、多賀氏の作品の雰囲気とよく合っていると思う。どちらも美しいグロテスクかな。

2010年11月9日火曜日

江戸のはやり神 (ちくま学芸文庫)

宮田登著
既存の宗教から離れた、民衆が生み出した宗教。一時的に熱狂と衰退から民衆の宗教意識や民俗を考察する。

 ずっと不思議に思っていたこと。なぜお賽銭を置く?私は外国のことは知らないのだけれど日本人の習性?以前ある百貨店で仏像展みたいなのが開催されていた。展示物の前にはお賽銭…。人面犬や人面魚にもお賽銭あげていたのか。いったい何のご利益を求めているのだろう??物には神が宿るみたいな一種の信仰があったけど (この考えは私は好きだ。今はすたってるけど) どんなものにも神様求めてしまうのね。
 祟るものや怖いものを福に変えてしまうのも面白い。歯の抜けたお婆さんに祈って、なぜ歯が良くなるのか理解に苦しむ。ただ、昔は医学も科学の発達がないから、そういうのに頼らざるを得なかったのは仕方ないことだけど。頼るものを発想で造り上げて熱狂していくようにも読めた。で、信仰…今の時代でいうと話題を集めているもので金儲け。いつの時代もこれは一緒。
 都市伝説の類いには触れて、新興宗教…オウムとかがまだ新しいのなら天理教でもいいけど、その辺りについての考察がないのが残念。著者の考えを読みたかった。…60代で亡くなったのか…残念。

2010年11月5日金曜日

江戸人の生と死 (ちくま学芸文庫)

立川昭二著
江戸後期を生きた六人の生き方にスポットを当てる。

 小林一茶って…。知っている作品が少ないせいかもしれないが、もっと穏やかな人かと思っていた。梅毒…。本の裏に「死生観を」とか書いてあるけど、あまりそういう感じには受けとれなかった。様々な死に際があるな、と。私が底浅い人間だからだろうけど。一番凄いなと思ったのは、滝沢みち。時代が違うのだろうけど、ここまでとことん尽くすんだ…。共依存か、人が必要とされることに対する快感か…。底知れないわ。私が好きなのは上沢杜口。現代人にも共感もたれるのではないかな。p20「公務を常として、出来栄もせず、越度もなきがよし。出来したがり誉められたがるは、皆求めたる私なり。故にては怪我をする」 要は仕事は誉められる必要は無い、確実にこなしておけ、ということかな。この言葉が好きだ。
 結論。死ぬ時はぽっくり。苦しむのは嫌だ…。

2010年11月2日火曜日

江戸はこうして造られた (ちくま学芸文庫)

鈴木理生著
江戸はどうやって造られていったか。私たちが知る江戸が形成される以前の江戸は?そして消された江戸前島は?

 どうしても都市が造られる時には平面から語られることが多いのだけれど、それを立体として論じていこうという主旨でいいのかな。実は鎌倉時代〜の日本史はさっぱりでして…。有名どころの名前は知っている程度。徳川家康はこんなに土木工事やったんだ。海運はこんなに大切だったんだ。っていうか、江戸って水路だらけ…。何というか、大名の経済力を削ぐこと、江戸の経済の基盤を築くこととか巧く噛み合って回っている。江戸前島…こんな事実あったのかと。興味深い、日本史も面白そうだ。
 お墓の利用も巧くできていて驚いた。骨もゴミも埋め立ての材料ですか。なんというエコロジー。
  笑えたのは、やっかいな法律ができた後遺物の発見がなくなったという事実。まーねー、建築業者の気持ちもわかるけど、あーもしかしたら自治体も見て見ぬ振り?開発遅れたら困るしね。
 天下普請が金で代納されるようになって江戸幕府の基盤が崩れ始めた、というようなことが述べられていたけど、小さいながらも自分たちの生活も振り返らないと。とても面白く読めた。土地勘がある人なら、もっと楽しめるんじゃないかな。