哲学者和辻哲郎の随筆集。25篇を収録。
哲学者の著作というと難しい文章が並べられているというイメージがあるけれど、これは読みやすい。もちろん読み易い=内容が無いというわけではなく、読みながら考えたり、思い出したりさせられる作品だった。一番好きなのは「文楽座の人形芝居」。実際見た事ない…テレビでは好きで観てたな。浄瑠璃からサンダーバード、ナイトメア( も入れていいよね )等等、人形劇大好き。この短文で述べられている浄瑠璃の世界にうっとり。成る程と思うところが多い。「世界の芸術と変革」…。この後第二次世界大戦。短文の始まりを読んで胸が痛む。著者の願いだったのかな。「埋もれた日本」述べられている事はもっともで理解できるけど、鎖国によって守られたものもあるしね…。哲学者にとって大切なのは思想だろうけど、もしあの時代の時点で思想の自由を大きく許していたら、キリスト教によって多くの文化財は破壊されただろうし、アフリカと同じような運命を辿る事になったのではないかと。もちろん迫害が正しいとは思わないけど。うーん、ま、素人の戯言です。「露伴先生の思い出」のところの「なければならない」は興味深い。今は当たり前に使っているだけに、そうなのかと驚いた。
この時代の著者は総じて文章が美しい。日本語が丁寧で、今は使われない言い回しの持つ美しさ。それに触れるだけでも価値があると思う。こういう文章を書きたいものだ。